阿部高和が雛見沢村に引越して来たようです・阿部殺し編

スレ1


6 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 20:26:08.27 ID:BwEUyWsCO
俺の名前は阿部…阿部高和…。


しがないゲイの自動車修理工だ。


ひょんな事から雛見沢村に引越すことになっちまった…。

そう…この…悪夢のような村に…。

 


決して気持ちの良い物じゃないんだが……ちょっと聞いてくれるかい?…雛見沢で起こった…俺の…この俺自身の奇妙な奇妙な物語を…。

7 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 20:30:01.63 ID:BwEUyWsCO
余計な事に頭を突っ込むな…


今までに何千、何万と聞かされて来た言葉ではある…。
しかし人間とは愚かな物である…。


情にほだされて、余計な事に頭を突っ込む…。
そして破滅していく…。


俺も例外ではなかった…。あの時に彼を無視していれば…他の誰かにまかせていれば…。
あんな事にはならなかっただろう。


俺は…皆は……もう元には戻らない。絶対に…

 

失って初めて、その大切さが分かる…最低でも今は…。


10 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 20:32:11.76 ID:BwEUyWsCO
その一ヶ月前……雛見沢村


阿部高和は欠伸をしながらガレージから天空を仰いだ。春眠ならぬ夏眠暁を覚えず。。。といった所だろうか…。


引越してきて三日目……ここは平和だな。

この前まで住んでいた地方都市の喧騒が嘘のようだ。

そこでは毎日が混沌の日々であり、同時に病的な程の緊張の日々であった。

 

毎日のように救助車とパトカーのけたたましいサイレンの音を聞き、毎日のように思った…。

 

狂っている………。


12 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 20:34:00.21 ID:BwEUyWsCO
それに比べればここは天国だ…。

生活が多少不便なのと、ベンチに座っての男あさりが出来ないのを除けば…。

いつも普段着にしている、青いつなぎを胸まで開けて着て、公園の公衆便所脇のベンチに座ってれば、必ず声をかけられる人気物だったのだが…。


まあいいさ…。

こんな小さな村でもボーイフレンド位なら出来るだろう。例えば医者とかカメラマンとか刑事とか……学生とか……。


出来てもらわなきゃ困るな。こんな小さな村で暇つぶしとして思い浮かぶ物と言えばセックスくらいなものだ。


何というゲイの自動車修理工。


13 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 20:34:59.81 ID:BwEUyWsCO
阿部は再び大きく欠伸をした。
ガレージの目の前には畦道を挟んで見渡す限りの田んぼが広がっている。

のどかな風景だ…。車はおろか、人なんか滅多に通らない…。


阿部は伸びを一つすると、椅子から立ち上がり、ガレージの入口から外に出てみる。

 

心地よい風がそよぐ…実に空気がうまい!!


15 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 20:38:36.98 ID:BwEUyWsCO
ふ、と見ると、畦道の向こうから誰かがパタパタとサンダルを鳴らして走って来る。
白いワンピースに、丈の短い半ズボン。髪の毛はフワフワした金髪で、その金髪をヘアバンドか何かで止めている。

年は小学校高学年辺りだろうか…随分と活発でおてんばそうな印象を受けた。


ガレージに何か用なのだろうか…。何かから逃げているようにも見えた…。


16 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 20:39:16.10 ID:BwEUyWsCO
見ると彼女は泣いていた。クリクリしたかわいらしい目から流れる涙を手で拭い、泣きながら走って来る。
一体どうしたのだろうか…。見れば顔に痣が出来ている。顔だけではなく、手や足にも…。

いじめにでもあったのだろうか…。彼女は声をかける間もなく、ガレージを通り過ぎて行ってしまった。

 

18 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 20:41:05.12 ID:BwEUyWsCO
それから間もなくして、半袖のワイシャツに黒ズボンの、学生とおぼしき男の子が女の子が走って来たのと同じ方向から走って来た。

さっきの女の子と同様に金髪をした、なかなかの美男子だ。彼女の兄だろうか…こういうボーイフレンドが欲しいものだ。


それにしてもさっきの彼女を追って来たのだろうか…。よくよく見れば彼の顔にも痛々しい痣がくっきりと浮き出ていた。

 

19 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 20:41:56.23 ID:BwEUyWsCO
ちょうど修理工場の前まで来た時に彼が話しかけて来た。


「すいません…女の子がこちらに来ませんでしたか?」


「ああ、来たよ…向こうに行ったよ…それにしても…泣いていたみたいだけど、君がいじめたか、何かしたのかい?」


その美少年は一瞬、ためらいがちに下を向くと、首を横に振った。


「いえ、そんなんじゃ……」


男の子は明らかに動揺していた。
本当に彼がいじめたのだろうか…。誰かを傷つけたり、いじめたりするようには到底みえないが…。


「何か有ったのかい?俺に話してごらん?兄妹喧嘩かい?」

「いえ、何でもありません…。失礼します。」

そういうと丁寧に礼をして、女の子が走っていった方向へと去っていった。

一体何だったのだろうか…。

20 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 20:44:54.77 ID:BwEUyWsCO
阿部はただただ、小さくなっていく彼の背中を眺める事しか出来なかった…。

 

 

 

ギシギシと音をたてる古臭い椅子に座りながら、阿部は心配そうに畦道を眺めた。

彼等は大丈夫だろうか…。


外では、もう日が落ちかけて、赤々しい夕焼けが顔を見せている。

阿部は眩しそうにしながら、もう一度畦道を眺めてみた。


21 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 20:45:49.33 ID:BwEUyWsCO
誰かが歩いて来た。
彼らだった。少年が件の女の子をおんぶしていた。

女の子の方はスースー寝息を立てて眠っているようだった。
やはり兄妹としか思えない。


「見つかったのかい?」


「ええ、おかげさまで…。ありがとうございました。」

彼は顔を下に向けて、はにかんだように微笑んだ。


「…どうだい?お茶でも飲んでいくかい?」


阿部がガレージの奥を親指で指しながら行った。

少年は遠慮がちに首を横に振った。

22 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 20:46:22.16 ID:BwEUyWsCO
「いえ…妹が眠っているので…また今度…。」


「そうか…じゃあいつでもおいで。歓迎するよ。」


少年は行ってしまった。

本当に何だったのだろうか…。

阿部はいつまでも、いつまでも、その兄妹の背中を見つめていた…。

24 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 20:47:02.18 ID:BwEUyWsCO
阿部は符に落ちないという表情で、ガレージの汚い机を眺めていた。

昨日の兄妹は一体何だったのだろうか…。
それに…あの痣…
一体彼らに何が…


「あの…お兄さん。すいません…。」

不意に声をかけられて、阿部は顔を上げた。


そこには、くすんだ緑のキャップに黒いタンクトップ姿の、中々の男前が自転車を押して立っていた。タンクトップから覗く隆隆とした肩や腕の筋肉の付き方は、まさにゲイ好み。


「何の用だい?」


28 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 20:53:08.09 ID:BwEUyWsCO
「いえ…道に迷ってしまって…少し休ませてくれませんか?」


俺的にはこんなナイスガイは大歓迎だ。

「ああ、いいぜ。とりあえずそこに座りな。」


俺はそういうとさっきまで座っていた古臭い椅子を彼に勧めた。


「あ…すいません。」


ナイスガイは遠慮がちに椅子に腰かけた。


「俺は阿部高和…自動車修理工をしている。…所でアンタの名前は?」


「富竹です。…フリーのカメラマンをしてて……主に野鳥の観察をしています。」

31 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 21:05:42.57 ID:BwEUyWsCO
富竹は高そうなカメラを大事そうに抱え上げた。


「そうか…富竹か…トミーでいいな。よろしくなトミー。」


俺は富竹と名乗ったナイスガイに手をさしのべた。
彼は照れ臭いのだろうか…はにかんだようにに手を握り、握手をしてくれた。
彼の手は温かく、それでいて引き締まっていた。


「いえ…こちらこそ…。」


下を向いたまま富竹が呟いた。


32 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 21:06:18.41 ID:BwEUyWsCO
阿部はコーヒーをいれながら、うつ向いたままの彼に話しかけた。


「ここへは、野鳥の観察で来たのかい?」

「え…ええ…まあ、そんな所ですね。」


富竹は大事そうにカメラを抱え込み、離さなかった。


阿部はマグカップに注いだコーヒーを富竹に手渡した。
富竹は会釈をしながら、それを受け取った。

コーヒーの香ばしい、何とも言えないふくよかな香りが辺りを包む。

33 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 21:06:49.41 ID:BwEUyWsCO
「あの…阿部さん、おたずねしたい事がありまして…。」


「ん?何だい、トミー。」


「この辺りに…ホテルか旅館はないでしょうか…。」


富竹が恥ずかしそうに頭を掻きながらたずねた。


「何だい?…泊まる所を探しているのかい?」


「ええ、そうなんですよ。」


「……遠慮せずに言えよ、俺に泊めて下さいって。」


34 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 21:08:50.76 ID:BwEUyWsCO
「いやいや、いいですよ…何もそこまで…」


「……おいおい、空気読めよトミー…。」


阿部が富竹の肩をガッシリと掴んだ。富竹の固く引き締まった筋肉が手に心地よい。


「…俺はお前に泊まって欲しいんだぜ?」


「阿部さん…。」


阿部と富竹は互いに見つめ合い、ついに富竹は折れた。


44 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 21:32:55.50 ID:BwEUyWsCO
「さあ、ここが俺の家だ。まあ、くつろいでくれよ。」


そう言うと阿部は富竹の肩を押して、家に招き入れた。


「夕食は何がいい?」


阿部がつなぎの上にエプロンを着けながらたずねた。


「あ…じゃあ、カレーライスで…。」


46 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 21:35:03.93 ID:BwEUyWsCO
富竹が出された冷たい麦茶とおはぎに手を付けながら答えた。
阿部特製のおはぎは小豆の味わいが深く、何より甘かった。


「好きなのかい?…カレーライス…。」


「ええ…大好きですよ…。」


阿部はルーを煮込み始めた。香りから察するに、阿部特製のカレーライスはどうやら辛口らしい。


「辛いの大好きですよ…阿部さん…。」


富竹が阿部の方を向きながら言った。


「そうか…じゃあ今夜は辛くしないとな……特別に…」


阿部は富竹に向かってウィンクをした。
富竹は心得たように笑顔で頷いた

50 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 21:44:23.80 ID:BwEUyWsCO
「そういえば…阿部さん…。」


カレーライスを食べ終えて、食後に出された麦茶を飲みながら富竹が神妙な面持ちでたずねた。


「なんか…変な裸足の足音がしませんか?…さっきからペタペタって…」


食器を洗いながら阿部は耳を澄ませた。しかし足音など聞こえない…。

聞こえるのはそうぞうしいカエルの鳴き声と、蛇口から水が流れるサラサラという音だけだった。


冗談なのだろうか…。

「そうか…?俺には何も聞こえないぞ?」


阿部は富竹の方を振り返った。

富竹はカメラを抱えて、小刻に震えていた。
マラリアにでもかかったかのように顔が真っ青だ。

「本当に…本当にしてるんですよ…僕のすぐ後ろから…。」

富竹の後ろには白い壁紙の壁があるだけだ。人が入れる余地などない。

真夏の熱帯夜だというのに、阿部は言いようのない寒気を感じた。
51 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 21:52:54.13 ID:BwEUyWsCO
何とも気味が悪い事を言う奴だ…。


「そんなの気のせいさ…。さぁ…風呂にでも入れよ。俺は先に布団を温めてるから…な?」


阿部は無理矢理笑顔を作って富竹に言った。

富竹は無言で、ただ頷き、青い顔のまま立ち上がると、風呂場へと足を引きずるように歩いて行った。

カメラも持って行くようだ。


阿部は富竹が飲んでいた麦茶のコップを片付けようと、テーブルへと手を伸ばしていて、何かに気付いて、手を止めた。

富竹が座っていた椅子の上に写真が無造作に置いてあった。


座ってて、富竹のポケットから落ちたのだろうか…。

52 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 22:00:01.91 ID:BwEUyWsCO
阿部は写真を摘み上げて、まじまじと眺めた。


一体なんなんだこれは…!!


写真には椅子に縛られた女性が写っていた。

金髪をした、ムカつく位におっぱいのデかい美しい女性だ。

猿轡を噛まされたその表情は脅えきっていた。
女性は恐怖で見開いた、不安そうな目をカメラのレンズに向けていた…。


何だろうか…SMポルノの写真だろうか…。


それにしても何とも気味が悪い写真である。

富竹に後で返してやろう…。


阿部はつなぎのポケットに写真を入れた。

55 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 22:07:24.47 ID:BwEUyWsCO
「阿部さん…いい湯でした…。」


寝室の襖をスッと開けて、富竹が静かに入って来た。


「待ちくたびれたよ…さあ…はじめようか…。」


「阿部さ…そんな、突然…あはっ…はあ!」

阿部は風呂上がりでほてった富竹の体を思い切り押し倒した。


物凄い早さで阿部がつなぎを脱ぎ終えて、全裸になる。


阿部の淫棒は既にギンギンに勃起していた。

57 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 22:13:05.85 ID:BwEUyWsCO
「さあ…入れるぞ…。深呼吸して…力を抜くんだ…トミー」


阿部の淫棒が富竹の菊門へとあてがわれる。

富竹の体がビクッと小さく痙攣する。


「阿部さ…いや…優しくして…下さいね。」


富竹が頬を赤く染めながら恥ずかしそうに言った。

阿部はその反応にニヤリとした。


そして富竹の菊門に淫棒を一気に突き込んだ。


「アッー!」


激痛と快感からか、富竹の体が海老のように跳ねた。

59 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 22:17:15.05 ID:BwEUyWsCO
「アッー!アアッ!阿部さん…気持ちいい…。」


「さすがトミー…締まりがいいな…。」


「アアッ!アッー!アッー!」


「なあ…トミー…。野鳥の観察で雛見沢に来たってのは嘘だろ?」


「いや…そんな…アアッ!うアッー!」


「本当は何しに来たんだい…?言ってごらん?ホラ!ホラ!」


「…………それは…その……アアアッ!アッーー!」

61 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 22:30:35.11 ID:BwEUyWsCO
散々富竹を掘り終えると、阿部は息を切らせながら、汗だくで横になった。


富竹も同様に息を切らせて仰向けに横になっていた。


夢中で掘りまくり、気付けば、もう朝方の三時…。


やれやれ…こいつはハードだぜ…。


阿部は、富竹があえぎながら呼吸を繰り返す様子を尻目に、ようやく床についた。

63 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 22:39:34.97 ID:BwEUyWsCO
どのくらい眠っただろうか…。

窓から覗く空は明るくなりかけていた。


隣では寝息を立てて富竹が眠っている…。

阿部は昨夜の事を思い出した。
富竹が言っていた裸足の足音…そして気味の悪いポルノ写真…。

富竹が雛見沢村を訪れた本当の理由…。


この富竹という男…一体何者…。


…と不意に玄関のチャイムが鳴った。何度も何度もしつこいくらいに。


こんな時間に一体誰だろうか…。

69 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 23:15:27.30 ID:BwEUyWsCO
時刻は4時半過ぎ…。


まだ朝と呼ぶには早すぎる時間帯だ。
新聞屋でもなさそうだし、一体誰だろうか…。


阿部は眠たい目を擦りながら玄関の方にフラフラと向かった。


依然としてチャイムとドアを叩く音がひっきりなしに響く。
朝っぱらからうるさい奴だ。


「はい…どなたですか?」


阿部はドアを少し開けて、外の様子を見た。


途端にドアを掴まれた。
そして乱暴にドアを引かれて、阿部は危うく外の人影にぶつかりそうになった。


「危ないじゃないか!一体だれ…。」


阿部は顔を上げて、文字通り絶句した。

71 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 23:20:36.47 ID:BwEUyWsCO
そこには5、6人では効かない程の制服警官が立っていた。


その先頭には、刑事なのだろうか…いやらしい表情を浮かべた黒いワイシャツに赤いサスペンダーの中年の男…。


「ンッフッフ…阿部さん…朝早くすいません……私興宮署の大石と申します…。」


大石と名乗った男が首を振って合図をした。
途端に後ろの制服警官が家になだれこんで来る。

72 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 23:29:55.04 ID:BwEUyWsCO
「一体何の用だい?」


阿部は大石を睨みながら強い口調で言った。


「ここに富竹がいるんでしょう?…ンッフッフ…隠したって無駄ですよ…。」


そういうと大石は阿部の肩をポンポンと叩き、家の中へと入って来た。


「大石さん!…容疑者を確保しました!」


先に中に入っていた制服警官が富竹を引きずるようにして、玄関まで連れて来た。

富竹は青白い顔をしてひたすらうなだれていた。

「ンッフッフ…富竹ジロウ…殺人と死体遺棄そして誘拐の容疑で逮捕します。…ワッパをかけて下さい。」

阿部は何が起こったのか分からずに混乱した。
トミーが……逮捕?

「阿部さん…アナタも署までご同行願いますかな?」

大石の熱い手が阿部の肩に乗せられた。
どうやら従うしかないようだ。

阿部は手錠をかけられる富竹を尻目に、大石に肩を押されてパトカーへと乗り込んだ。
 
75 名前: 2軍選手(新潟・東北) [sage] 投稿日: 2007/03/19(月) 23:42:37.50 ID:BwEUyWsCO
「阿部さん…危なかったですね…次はあなたの番だったかもしれませんよ…」


大石が資料を読みながら阿部に言った。


「一体…これはどういう事なのか説明して下さい…。」


阿部がイラついたように言った。


「実を言うと…富竹ジロウは…連続殺人鬼でしてね……手口がこれまた酷いもんでしてね…。」


そういうと大石は写真を何枚か机に並べた。


椅子に縛られた人ばかりが写っていた…。
そして共通する事は、写真に写っている人が全て恐怖に顔を歪めて、カメラのレンズを凝視している事だ。


あの時に拾った写真は…。

79 名前: 2軍選手(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/19(月) 23:52:41.29 ID:BwEUyWsCO
「これは殺害される前の被害者の写真です。富竹はこうやって、殺害の過程を写真におさめていたんですよ。」


大石はさらに写真を取り出して机に並べた。

阿部は吐き気がした。

そこには椅子に縛られ、ナイフで生きたまま徐々に体を切り刻まれていく、まだやっと中学生ぐらいの少女の過程が刻々と刻まれていた。


緑色の髪の毛を後ろで留めてポニーテールにした可愛い女の子だ。


だが最後には腹を開かれて内臓を根こそぎ引きずり出され、肋骨を籐の籠のように飛び出させた、ただの肉の固まりになってしまっていた。


「所持していた写真だけで7人…これからまだまだ増えそうですがね…。」


大石は溜め息をついた。

81 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 00:00:34.84 ID:ooFQSwoEO
「ここに写っている少女の名前は園崎詩音……雛見沢の名家、園崎家のお嬢さんですよ。」


大石が写真を指差しながらしわがれ声で呟いた。


「丁度一週間前に行方不明になったそうで……まだやっと14歳…まだ未来も希望もあったでしょう…可哀想に…」


写真の中で、腹にナイフを突き立てられている詩音が、阿部に助けを求めてるかのように目を見開いて、こちらを凝視していた。


阿部は思わず目をそらした。

83 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 00:09:36.19 ID:ooFQSwoEO
「大石さん!容疑者が所持していたカメラのフィルムの現像が終りました。」


唐突に取り調べ室のドアが開いて、大石の部下らしき人が飛び込んで来た。


「おお…ご苦労様…で、現像した写真は…?」


「はい…この6枚の写真がそうです…。」


部下が大石に写真の束を手渡した。
厳しい顔付きで大石が写真を凝視する。


「…ンッフッフ…どうやら…次の犠牲者の下見らしいですね…。もしかしたら既に殺されてしまっているかも…。」


大石は再び机に写真を並べた。


「阿部さん…この人達に見覚えはありませんか?」

84 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 00:18:10.00 ID:ooFQSwoEO
並べられた写真には6人の男女が写っていた。

この中で見覚えがあるのは…なんてこった!!


昨日会ったあの兄妹の写真が揃ってあった。


「これです!この兄妹!…昨日会いました!」

阿部が二枚の写真を指差した。

大石がそれを摘み上げた。


「ほほぉ…北条兄妹ですか…ここらではちょっとした有名人でしてね…」

大石が続けた。

「実は彼等の両親は既に亡くなられているんですよ。」


大石は摘み上げた写真を元のように並べ直した。

阿部は言いようのない脱力感に襲われた…。
「数年前に事故で死んでから…二人は叔父に引き取られる事になったんですが…この叔父ってのが厄介な人物でしてね…」

88 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 00:31:41.94 ID:ooFQSwoEO
「叔父に虐待されてるんですよ…この子達……」


大石が遠い目で窓の外を眺めた。


「酷い虐待でしてね…私もよく見ますよ…この下の妹が泣きべそ掻きながら走って逃げるのを…。」

「虐待されてるのに…どうして助けないんですか!」

「現在の所…相談所の決定は、緊急性が無いという事で様子見…なので我々も手が出せないんです…ンッフッフ…酷い話でしょ?」

阿部はいたたまれずに、机を強く叩いた。

大石が音にビックリしてこちらを向く。

「彼等は…まだ無事なんですか?」

「ええ…一人を覗いて全員と連絡がとれています。」

大石が阿部をみながら言った。

「その金髪の女性以外です。名前は鷹野三四、診療所で看護婦をしています。」

写真に写っていたのはまごうことなき、例の写真に写っていた人物だった。

阿部はポケットに手を入れて写真を取り出そうとした…だが……無い!!

クソッ!何処かに落としたか!

91 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 00:39:36.22 ID:ooFQSwoEO
「この写真に写ってるのは全部雛見沢村に住んでいる人達ですね。この北条君を除いて皆女の子ですね。竜宮礼奈、園崎魅音、古手梨花、北条沙都子、鷹野三四…。」

 

「あの…大石さ……」

家で拾った写真の事を大石に報告しようとした刹那、その声は怒鳴り声でかき消された。


「あ……おい貴様!何をやっている!おい、止めろ!……おい、誰か!取り押さえてやめさせろ!」

92 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 00:46:17.07 ID:ooFQSwoEO
何事だろうか…隣の…富竹が取り調べを受けている取り調べ室から怒号と怒鳴り声が突然聞こえて来た。


「一体何事だ!」


大石が外で立っている守衛に怒鳴った。


「どうやら……富竹容疑者が…目を離した隙に喉をひっかいて自殺をしたようです…。」


血生臭いにおいがこちらまで漂って来た。

ドタドタと足音がして、何かを運んでるような音が聞こえた。

94 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 00:51:37.78 ID:ooFQSwoEO
「もうこれは助からないかもな…。」


そんな呟きが廊下から漏れた。

ガボガボと何かを吐くような音が外から聞こえる。

血の臭いが更に濃くなった。


「阿部さん…。」


大石がこちらを静かに向いた。


そしてモゴモゴと呟いた。


「どうやらこの事件……迷宮入りしそうですよ…。」


誰も何も言わなかった…。

160 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 16:33:42.83 ID:ooFQSwoEO
阿部は椅子に座りながら、ぼんやりと昨日の出来事を思い出した。


富竹の逮捕……自殺……

被害者のむごたらしい写真…

連続猟奇殺人…


そして大石の最後の一言…。

「阿部さん…この事は絶対に誰にも言わないで下さい。いいですね?」

163 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 16:43:53.09 ID:ooFQSwoEO
阿部は溜め息をつくと、背もたれによりかかった。


大分ガタがきた椅子が騒々しい音をたてて軋んだ。


全く雛見沢に来て早々これか…。
厄介な事に巻き込まれたもんだ…。


阿部はもう一度深く溜め息をつくと、ガレージの入口から外を眺めた…。


今日も空は晴れ渡っている…。

そして今日も畦道の向こうから女の子が泣きながら走って来た。


北条沙都子…。

165 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 16:59:13.01 ID:ooFQSwoEO
鼻をすすり、鳴咽をこらえる音が近付いて来る…。


虐待をされて、痣が浮いた目を擦りながら北条沙都子はこちらに向かって走って来る。


衣服が不自然に乱れていた。無理矢理脱がされでもしたかのように…

とくに半ズボン…。

169 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 17:25:59.60 ID:ooFQSwoEO
まだ…まだこんなに小さな子供に…何て事を…。

阿部の心は痛んだ…。


誰かが助けてやらないと…彼女はいずれ壊れてしまう…修復不能なくらいに…。


女の子がガレージの入口を通り過ぎようとしている…。


誰かが…助けなければ……!


「なあ、おい……」


阿部は走り去ろうとする女の子に声をかけた…。
女の子は立ち止まり、阿部の目を腫れぼったい目でじっと覗きこんだ…。


「もしよかったら…お兄さんが迎えに来るまで…奥でおはぎでも…食べていかないかい?」

172 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 17:35:15.09 ID:ooFQSwoEO
しばし…阿部と女の子は見つめあう…。


不思議そうな表情で阿部の目を覗き込み、こちらに助けを求めるでも、非難するでもない複雑な表情を向ける。


「さあ…来なよ…。休んでけばいい。」


女の子は唐突にニッコリと笑い、大きく頷いた。

「じゃあ…いただきますわ。」


阿部もニッコリと笑みを返した。


173 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 17:43:42.92 ID:ooFQSwoEO
阿部は早速、その女の子にほうじ茶とおはぎを出してやった。


女の子は嬉しそうにおはぎを頬張った。


女の子の名前は大石に聞いた通り北条沙都子といった。


兄が一人いるそうだ。


名前は悟史…。


この近くの学校に通っているそうだ。


沙都子は学校での事を口の端にあんこを付けながら楽しそうに語ってくれた。

175 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 17:53:26.92 ID:ooFQSwoEO
沙都子は本当に楽しそうに語ってくれた。


友達の事……部活の事……授業の事…。


こうして見ると、虐待されている子だなんて全く見えなかった…。


腕の痣をさすりながら、本当に…本当に…楽しそうに語り続けた。


阿部と沙都子は時間を忘れる程、夢中でお喋りをした。


ふ、と気が付けば、外はもう、ひぐらしが鳴きはじめる時間になっていた。


赤い夕焼けが辺りを包む…。

181 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 18:08:15.09 ID:ooFQSwoEO
そういえば…迎えに来るはずの悟史が遅い…。


どうしたんだろうか…。


「なあ…お兄さん遅いみたいだけど…どうしたんだろう…。」


阿部が心配そうにガレージの入口から外を覗き込む。

「仕方ありませんわ…。にーにーは忙しいんですもの…。」

何か嫌な事でも思い出したのだろうか…沙都子が寂しそうに、下を向いた。

目は今にも涙が溢れ出んばかりにうるんでいた。

「沙都子…。」

阿部はいたたまれない気持ちになった…。
もう辺りは暗くなり始めていた…。

阿部は下を向いたまま、涙をポツリポツリと落とす沙都子の手を握った。
何と小さくて…脆い手だろうか……。

「分かったよ…俺が家まで送ってやるよ…だから元気だせよ…な?」

沙都子はゆっくりと頷いた。

184 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 18:43:28.97 ID:ooFQSwoEO
阿倍と沙都子は手を繋ぎながら、暗くなりかけた田んぼの畦道を歩いていく。


さっきまであんなに楽しそうにしていた沙都子も、今ではうなだれてトボトボと歩いていた。


どこからか…大勢でワイワイと騒ぐ声と怒声のような声が聞こえて来た。

その声が聞こえた途端に沙都子がビクッ、と体をすくませた。


沙都子の小さな手が小刻みに震えている。


どうやら郊外にポツリと一軒建っている、あの家らしい。


大勢で何かをやっているようだった…なんだろう…麻雀か…?

187 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 18:56:10.36 ID:ooFQSwoEO
沙都子はその騒ぐ声を聞くやいなや、阿部の背中に隠れた。

震える手で阿部のつなぎを掴み、離さない…。


「おらぁ!悟史!はよぅ酒持って来んかい!」


一際大きい怒鳴り声が家から聞こえた。


どうやら虐待されてるのは本当らしい…何てこったい……。


これは一度じっくり話し合う必要があるな…。


阿部は沙都子の手をしっかり握ると、玄関の戸を思い切り開けた。


「ちょっとお邪魔させてもらうよ!!」


阿部は凄味のある声で怒鳴った。


ワイワイと騒ぐ声が一瞬のうちに水を打ったように静かになった。

197 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 19:40:58.27 ID:ooFQSwoEO
「おいおい、この家は誰もいないのかい……?そんなはずないだろうが!!!出てこい!!」

阿部は再び怒鳴り声を上げた。
それこそ家がビリビリと振動する程の大声で…。

沙都子が後ろで不安そうにモジモジしている…。

「お前…どこの回しモンじゃ…。」

奥の部屋からフラリと男が出てきた。

パンチパーマに、歯がボロボロ、ギラギラとした金のネックレスに派手な指輪……。

典型的なチンピラファッションだ…もしかしたら本職の方かも…。
だが阿部はひるまなかった…。

「アンタと話がしたいんだ。いいかい?」

阿部は出来るだけ声のトーンを抑えて話かけた。

「お前と話する事なんか無いわ、アホンダラ!」

今にも掴みかからん勢いで男が阿部に怒鳴り返した。

後ろから沙都子の泣き声が聞こえる…。

201 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 19:55:52.94 ID:ooFQSwoEO
「少しでいい…話をさせてくれよ。」


阿部は何とかして虐待を止めさせようと食い下がった。


だが、男の矛先は阿部から、阿部の後ろに隠れた沙都子へと向けられた。


「オラァ!このダラスが、お客ほったらかしにして今までどこにおったんじゃ!……皆の酒の肴にするけぇ、ちょっと来いや!!」


男は沙都子の手を掴み上げると、そのまま乱暴に家に引きずり込もうとした。

沙都子は無言のまま、阿部のつなぎの袖を掴んで、離さない…。


阿部は心が張り裂けそうになった…。

203 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 20:07:03.79 ID:ooFQSwoEO
「おい!止めないか!嫌がってるじゃないか!」


阿部が男の腕を掴み、ひねり上げる。
しかし、慣れているのだろうか、ひねり上げられる前に男が阿部の腹の辺りに強烈なブロウを叩き込む。

「ハアッオ"!」


阿部は玄関の戸にしたたかに背中を打ち付けた。


男が追撃をかけようと拳を振り上げて、阿部の顔の真ん中に振り下ろした…。


しかし、それを受け止めると、掴んだ腕を振り回し、玄関から外へと投げ出した。


男が外へと投げ出され、砂煙をあげながら盛大な音を立てて倒れた。


阿部がつなぎの袖を捲りながら玄関から外へと出た。

206 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 20:16:54.50 ID:ooFQSwoEO
「このクソッタレ……なかなかやりおる…。」

男が血の混じった唾を吐きながら起き上がった。


「そっちがその気なら…やってやろうじゃないか…。」


阿部がボクシングスタイルで拳を構えた。


捲り上げた袖から覗く、肩の筋肉が盛り上がり、ギュッギュッ、と窮屈そうにつなぎを鳴らす…。


玄関の方を見ると、沙都子と悟史が心配そうにこちらを見ていた。
短期決戦…一撃で終わらせねば…。

阿部は拳を構えたまま男ににじり寄った。

209 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 20:27:47.73 ID:ooFQSwoEO
互いに睨み合いが続く…。

一触即発の空気が辺りを包んだ…。


「ハイ…そこまでですよ…皆さん落ち着いて下さい。」


突然背後から落ち着いた男の声が聞こえ、そして後ろから羽交い締めにされた。


「これ以上やったら怪我人が出ますよ…。さあ、もう喧嘩は止めて下さい…。」


男が拳を下ろして、阿部の方に睨みを効かせながら、唾を吐いた。


「覚えとれよ、クソッタレが。」


そういうと男は玄関から家に入り、乱暴に戸を閉めた。


「落ち着いて下さい、阿部さん…そんな事をしても何の解決にもなりませんよ?」


落ち着いた男の声が再び背後から聞こえた。

214 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 20:32:55.21 ID:ooFQSwoEO
「分かったよ…分かったから放してくれないかい?苦しいんだ。」


「あ、ああ…すいませんでした。」


男は慌てて手を離した。


阿部は咳き込みながら後ろを振り向いた。


そこには眼鏡をかけて、長い髪をした、なかなかのハンサムが立っていた。

随分と知的そうな印象を受けた。


「アンタ…一体誰だい?」


「私ですか?…私は入江と申しまして、この村の診療所に勤めています。」


「お医者さんか…。」


どうやらこの村にはナイスガイが多いようだ。

218 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 20:42:09.19 ID:ooFQSwoEO
「阿部さん…所でどうしてあんなゴロツキと喧嘩なんかを…?」


入江先生が阿部に治療を施しながらたずねた。


「ああ…あの兄妹があまりにも可哀想で…見ていられなくて…。」


傷口にエタノールを染み込ませた脱脂綿で消毒を施していた、入江先生の目が急に哀しみを帯びたものになった。


「沙都子ちゃんと…悟史君の事ですか…。ここいらじゃ有名な話ですよ…。」


入江先生が続ける。


「両親が死んでからですよ…あの男に引き取られたのは…。……最初は私も阿部さんのように拳で闘いました…しかし……人というのは何と無力なんでしょうか……何の解決にもなりませんでした。」

219 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 20:51:40.82 ID:ooFQSwoEO
「あんな状態が暫く続いて、沙都子ちゃんは次第に壊れていきました…。この世の全ての物に絶望し、何に対しても反応しなくなりました…まるで人形のように…。」


入江先生が溜め息をつきながら、傷口にガーゼを貼った。


「そこで彼等を学校に通わせるように提案したのが私でした。…学校で友達の皆と接するうちに彼等は次第に笑顔を取り戻すようになっていきました…。しかし根本的な解決には繋がっていません…。」


「今のところ、彼等を支えているのは友達の存在なんです。それが無かったら今頃彼等は…。」


入江先生が治療を終えて顔を上げた。

不安げな顔をしている。


「是非とも阿部さんも彼等を支えてあげて下さい…お願いします。」

221 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:03:29.70 ID:ooFQSwoEO
阿部は何と言っていいのか分からないので、ただ分かったという風に頷いた。


入江先生が少年のような笑顔でニッコリと笑った。


「あ…そうだ、じゃあ阿部さん、今度私が監督をしている野球チームの大会があるんですが、阿部さんどうですか?…皆見に来るんですよ…。悟史君も選手として出ますし…。」


阿部に拒否する権限などない…


阿部は入江先生の方を向きながら、頷いた。


「良かった…阿部さんが応援に来てくれればきっと彼等も喜びますよ。」


阿部はいつまでも…いつまでも…床を睨んでいた

222 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:08:16.85 ID:ooFQSwoEO
同時刻……北条家、居間。


居間では4、5人のゴロツキが鉄平と一緒に酒を飲んで、麻雀をやって騒いでいた。


その脇に立たされる悟史と沙都子…。


悟史は一体何をされるのか気が気ではなかった。


数人のゴロツキが時々、彼等の方をいやらしい目付きで眺めている…。


鉄平はそれを見て、ニヤニヤしていた。

224 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:14:09.36 ID:ooFQSwoEO
と、突然ゴロツキの一人が高らかにロンを宣言した。


悔しがる声と、冷やかしの声が同時に聞こえた。


上がったゴロツキは嬉しそうに、こちらを…いや、沙都子を眺めていた。


鉄平は渋い顔をして、頭を掻いた。


「しゃーないのー…おい、沙都子…ちょっとこっちゃ来てみぃ…。」


鉄平が蜜を垂らすような声で言った。

一体何をする気なんだ…。


悟史は言いようの無い不安感に襲われた。

226 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:21:00.90 ID:ooFQSwoEO
鉄平の手が、服の上からいやらしく、沙都子の胸の辺りを撫でた。


沙都子の顔がみるみるうちに赤くなっていく…。


「沙都子…ちょっと服…脱いでみぃや…な?」

鉄平がわざとらしく、ゆっくりと…沙都子のワンピースのボタンを外していく…。

230 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:27:53.10 ID:ooFQSwoEO
「ちょ……一体何を……」


悟史が見るに見かねて鉄平に呟いた。


「きさんは黙ってみとれ!!!」


鉄平に怒鳴られて悟史は次に繋ぐべき言葉を飲み込んだ。

次第に大きくなっていく、ギャラリーの息遣いとすすり泣く沙都子の泣き声以外に音はしなくなった。


ワンピースを全て脱がされて、膨らみかけた小柄な乳房を露にされた。


沙都子は下を向いたまま黙ってされるがままになっていた。

235 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:34:59.32 ID:ooFQSwoEO
「おう…お前の好きにしてええで…。」


そういうと鉄平はロンで上がったゴロツキの前に上半身が露になった沙都子を突き出した。


ゴロツキは沙都子の半ズボンに手を入れて、股間をまさぐりながら、沙都子の未熟な乳房をピチャピチャ音を立てて舐め回した。


沙都子の体がビクンと痙攣する。


悟史は実の妹がいたずらされるのを黙って見ているしかなかった。

239 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:41:24.51 ID:ooFQSwoEO
舐め回すのを止めると、今度は音を立てて吸い始めた。
小柄な乳房が口の中に隠れて見えなくなる。


チュウチュウ…と卑猥な音が響く…


「子供の胸はやわくてええのー。」


鉄平がタバコを吸いながら呟いた。


「も……止めて下さいまし…」


沙都子が消え入りそうな声で言った。

悟史は目を瞑った…これ以上…耐えられない…。

242 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:52:12.68 ID:ooFQSwoEO
「なあ…鉄っちゃん…挿入オッケー?」


上がったゴロツキが乳房から口を離して鉄平にたずねた。

「おうおう…やったらええやんけ…ここでやれや。」


「いや……止め……。」


鉄平が沙都子の半ズボンを無理矢理脱がした。

細く…それでいて綺麗な太ももと、白いパンツが現れた。


パンツが少し黄ばんでいるのを鉄平がめざとく見つけた。


「コイツのパンツ黄ばんでるやん……トイレ行ったらちゃんと拭かなアカンで。」


沙都子の突起を指でグリグリと押しながら鉄平が言った。


沙都子は下唇を噛み締めて、耐えた。

255 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 22:02:04.37 ID:ooFQSwoEO
「阿部さ……助け…て……」


沙都子がガタガタ震えながら阿部の名前を読んだ。


当然ながら……阿部は…来ない…。


「あの腰抜けが…来るはずないやん…」


鉄平が沙都子のパンツに手を入れて、沙都子の突起を二本の指で巧みに虐め倒す。

即座に反応して、突起が勃起のようにコリコリと固くなる。


次第に沙都子の体の力が抜けていく…。

260 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 22:11:48.16 ID:ooFQSwoEO
ゴロツキが素早い動きで沙都子のパンツを脱がすと、自らもズボンとパンツを脱いだ。


固くなった男根がそそり立っていた。
ゴロツキは自ら男根を揉みしだきながら、沙都子に近付いていく。

「嫌!……嫌だ!」

沙都子は暴れた…一生懸命…。
生きるために…。

「この後に及んで……おい!この小娘抑えとけや!」

たちまち四方から手が伸びて来て、沙都子の体の自由が奪われていく…。

そそり立った男根が沙都子の腟口をまさぐった。

「ヒグッ!」

沙都子は体をこわばらせて短い悲鳴を上げた。

「おう!きさん!ちゃんと見とけや!妹が犯されるとこやで…。」

鉄平がかたくなに目を反らし続ける悟史の襟を掴むと、顔を結合部分ギリギリまで持って行った。

「よう見とけや!大アリーナ席やで!」

271 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 22:30:54.77 ID:ooFQSwoEO
ゴロツキが腰を前に突きだした。


「アッー!」


ヌチャッ…と湿った音がして、男根が沙都子の腟に吸い込まれた。


その光景が悟史の眼前15センチで起きていた。目の前で、実の妹の腟が男根を吸い込んでは、吐き出しを繰り返していた。


悟史は愛液の匂いまで漂ってきそうなほど結合部分の近くに顔を固定された。


ゴロツキが腰を動かす度に愛液の飛沫が顔にかかる。


悟史の股間が素直に反応した。


鉄平はそれを見て笑っている。


二人はまさに地獄にいた。

280 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 22:59:39.79 ID:ooFQSwoEO
誰も助けてくれない…誰も…


悟史は声を押し殺して泣いた。

ゴロツキの腰の動きが次第に早くなる。

愛液で湿った棒がみるみるうちにに血走っていく。


沙都子は下唇を噛み締め、目をギュッと瞑り、ゴロツキの袖を掴んでひたすら耐えていた。


ゴロツキが腰を押し入れるごとに、沙都子の口からフッ…フッ…と息遣いが漏れた。


ゴロツキがうめき声を上げ始めた。
そろそろらしい。

「おう…悟史の顔にかけたれ!」

鉄平が悟史の顔を上下する男根へと向けた。
止めてくれ…と口にしようとしたが、ろれつが回らなかった。

「あ……も、イク…」
凄まじい早さで腰を動かしていたゴロツキが沙都子の腟から男根を抜くと、悟史の顔の前で自身を擦り始めた。

途端に青臭い、ドロリとした生暖かい粘液が悟史の顔を包んだ。

鉄平の笑い声が辺りに響いた。

292 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 23:15:12.96 ID:ooFQSwoEO
三日後……雛見沢村立運動場


阿部は入江先生に頼まれた通りに、運動場へとやってきた。
まばらながら、人はそれなりにいるようだった。


「こっちこっち!こっちですよ、阿部さん!」


入江先生の元気な声が聞こえた。

見れば入江先生が野球のユニフォーム姿で手を振っていた。


「入江先生…なかなかお似合いですよ。」


阿部が入江先生の胸の辺りを触りながら言った。


「あ…そんな…阿部さん…照れるじゃないですか…。」


そんな二人の様子を皆が遠巻きに見つめていた。

295 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 23:26:11.33 ID:ooFQSwoEO
阿部が入江先生の乳首の辺りを執拗に責めた。


入江先生がくすぐったそうに体をのげぞらせた。


「嫌ですよ……阿部さんったら…。」


「あの……監督……その人だれなの…かな?かな?」


遠巻きに見ていた白い服に、同じ白いベレー帽の可愛い女の子が入江先生に近付いて話しかけた。


入江先生がビクンと体をこわばらせてビックリした。


「あ…ああ…やあ、レナ…やあ、皆……この人は阿部高和さん…。この前引越して来た自動車修理工だよ。」


レナが阿部にぎこちない笑みを浮かべて手を差し出した。


「あ…あの…私…竜宮レナと申します…よろしくお願いします…。」

298 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 23:32:31.38 ID:ooFQSwoEO
「そうか…よろしくな、レナ…。」


阿部はガッチリとレナに握手をした。


「わわ!……はわわわわわ…!」


あんまりにもガッチリと握手をしたものだからレナの体がガクガクと揺れて、帽子が頭から落ちてしまった。


入江先生がさらに続ける。


「それで、この子が園崎魅音…こう見えてしっかり者の女の子なんだ。」


「話は沙都子と悟史から聞いたよ。よろしくね阿部さん。」


今度は魅音の方がガッチリと握りすぎて、阿部の手が痛くなった。

302 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 23:43:14.81 ID:ooFQSwoEO
「この子は古手梨花ちゃん…。……まあ…ちょっと変わった子で…。」


「ああ…よろしくな、梨花ちゃん。」


阿部は一際小柄な女の子に手をさしのべて、握手をした。


「沙都子に優しくしてくれて、高和ありがと、ありがとなのです。」


そういうと梨花は阿部の手の甲を撫で撫でした。

305 名前: 赤ひげ(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/20(火) 23:54:07.82 ID:ooFQSwoEO
「後はもう会ってますよね……悟史君です。…沙都子は体調不良で休みです…。」


入江先生が急に重々しい感じで言った。


「悟史…今日は頑張ってくれよな。皆で応援してるからよ…。」


阿部が悟史に微笑みかけた。

悟史が弱々しく微笑みを返した。
何だろうか……あまり元気がなかった…。


そんな悟史の様子を魅音が心配そうに見つめていた。

310 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 00:04:04.34 ID:BH3+wxJGO
「ねぇ……今日は沙都子ちゃんどうしちゃったのかな?…かな?…。阿部さん…なんでか分かるかな?…かな?」


レナが心配そうに辺りを見回しながら言った。


「いやー、ちょっと俺は分からないな…。」


阿部は知らない、という風に肩をすくめた。


「ねぇ、レナ……アイツの話はもういいよ…。今度したら…分かってるよね…?」

急に魅音の顔が氷のように冷たい表情になる。
阿部の背中に冷たい何かが走る。


「悟史君が頑張ってる時にさ…レナ、もうちょっと考えなよ…!」


魅音の声が冷水のようにレナにふりかかる。
レナは顔をみるみるうちに青くした。


「あ…えと…その…ごめんね…みぃちゃん……ごめんね…。」

322 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 00:17:38.75 ID:BH3+wxJGO
「みぃ……そんなに怒るなです。沙都子は沙都子で一生懸命なのです。」


梨花ちゃんが少しムッとしたように、魅音の手を掴んだ。


「悟史君の影に隠れて……泣いてりゃいいのに一生懸命?…笑わせないでよ!」


魅音が梨花の手を乱暴に振りほどいた。
その反動で梨花ちゃんが地面に尻餅をつく形で転んでしまった。


「おい!止めないか!」


阿部が魅音に向かって少し強い口調で言った。

324 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 00:29:08.02 ID:BH3+wxJGO
「分かってやってくれよ…魅音…沙都子は沙都子で辛いんだよ…。」


阿部が幾分かトーンを抑えて言った。


魅音の顔に徐々に後悔の色が浮かび、ついには涙を流し始めた。


「あの…私…私…本当に…ごめんね…ごめんね…。」


魅音は顔を手で押さえながら走って行ってしまった。


レナは不安げな表情で梨花の背中についた砂を払ってやった。

梨花の目が少しうるんでいる。


「高和……魅音を許してやって欲しいのです。許して下さいなのです。。」


レナも立ち上がると阿部の方を向いて言った。


「私の方からも謝るから…ね?阿部さん…。」

331 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 00:45:01.96 ID:BH3+wxJGO
レナは下を向きながら続けた。


「みぃちゃんのね……妹がね…急にいなくなっちゃって…それで…みぃちゃん…あんな風に……なっちゃったんだ…」


阿部の脳裏にあの写真が浮かんだ…。

生きたまま内臓を引き出され、苦悶の表情を浮かべて息絶えた…詩音の生涯最後にして最悪の写真…。


「みぃ…かわいそ、かわいそなのです。」


梨花ちゃんの頬に涙が伝った。


阿部はその場に立ち尽くした。
 
344 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 01:41:12.34 ID:BH3+wxJGO
そのあと皆で試合を見たが、全く頭に入らなかった。


考えていた事は沙都子の事…悟史の事…そして、魅音の事、詩音の事…。

 

阿部は苦悩し、混乱した…。


そして試合終了まで、誰も一言も喋らなかった。


どうやら試合はこちらの勝ちらしい。

入江先生が笑いながら悟史と抱きあっていた。


だが阿部達はそんな事をするような雰囲気ではなかった。

沈黙だけが辺りを包んだ。

397 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 16:55:42.91 ID:BH3+wxJGO
試合終了後……阿部は夕焼けで赤く染まった田んぼの畦道をぼんやりと一人歩いていた。


やはり考えつくものといえば、北条兄妹の事である…。


何とかしてあの男から助けなければ……二人は大変な事になってしまう。


だが…どうやって助ける?

学校は無力、警察や相談所でさえ匙を投げ、こんなしがないゲイの自動車修理工に一体何が出来る………?

 

一つだけ……一つだけ思い浮かぶ方法がある…決して許されない……人の道を著しく外れる……非道な方法が……。


この手で北条鉄平を………抹殺する事……。

401 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 17:03:36.36 ID:BH3+wxJGO
「阿部さん…。」


不意に後ろから声をかけられ、阿部は少しビックリした。


声の主は悟史だ…。


「おお……今日はお疲れさま…頑張ったな。」


「ええ……お陰様で…。」


悟史はやはり何処か元気がなかった。
時折、考え事でもしているかのように下を向いて黙ってしまう。


「……なんだ、沙都子の事か…?」


「ええ…その事で…少しお話がありまして…。」


悟史は立ち止まると、阿部の顔をジッと見た。

いつになく厳しい顔付きだ。

404 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 17:10:26.83 ID:BH3+wxJGO
「阿部さん……暫くの間……沙都子を預かっててくれませんか…?」


何を言い出すと思えば………突然の事に阿部は面食らった。


「おいおい……どうしたんだ…急に…」


「お願いします!!阿部さん!」


悟史が阿部に抱きついてきた。

汗ばんだユニフォームが阿部のつなぎに密着する。
綺麗な赤焼けが二人を包む…。

411 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 17:25:09.26 ID:BH3+wxJGO
「お願いします……阿部さん……お願い…」

悟史はグズグズと鼻をすすりながら呟いた。何とも…綺麗で純粋な涙が頬を伝う。


「悟史…お前……。」


阿部は悟史の頭を手の平で包み込むと、優しく頭を撫でた。

サラサラとした悟史の髪の毛が指の間を心地よく流れる。


「分かったよ……分かった……立ち話もあれだから、俺の家でおはぎでも食ってけ…疲れただろ?…な?」


悟史は阿部の胸の中でコクン、と小さく頷いた。

420 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 18:01:28.10 ID:BH3+wxJGO
阿部高和の家……


悟史はテーブルに座ると黙々と阿部特製のおはぎを食べ始めた。


阿部も2、3個摘まんで口に入れる。


「所で一体どうしたんだい…?急にそんな事を言って…」

阿部はおはぎを頬張りながら、悟史にたずねた。


「……もう…耐えられないんです…沙都子があの男に犯されるのを…見るのは…」


悟史は膝の上で、拳を握り締めながら、ゆっくりと言った…。


「あのままじゃ…沙都子はいずれ…壊れてしまう。……もう擦り切れる寸前なんです…。」


「…ああ……別に俺は構わないさ…。お前らの力になれるんなら何だってするよ…。」


阿部は悟史の手を握り締めた。
悟史の目から涙が溢れた。

423 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 18:17:43.69 ID:BH3+wxJGO
悟史が鳴咽を堪えながら言った。目は下を向いたままだ。

「阿部さん……恐いんです。」
「どうした……何が恐いんだ…。」

阿部は悟史の顔を覗き込むように眺めた。

目が不安そうにテーブルの上を泳ぐ…。

「…僕自身が…どうにか…どうにかなってしまいそうで…」

「そんな事ないさ…。」

阿部は悟史の肩を掴むと、顔をこちらに向かせた。

泣き腫らした不安げな目が阿部の目をジッと捉える。

「お前らは俺が守ってやる…心配するな…。」

悟史が涙を流しながら、躊躇いがちに目を伏せた。
そして静かに…消え入りそうな声で言った…。

「阿部さん……まずは…僕を…守って…下さい…。」

悟史が突然、阿部の肩を掴むと、そのまま強引に口付けをしてきた。


沙都子を俺に預けるという事への負い目からなのか……はたまた……ただ単に俺に対して愛なのだろうか……

阿部は黙って、悟史の唇を受け入れた。

447 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 19:33:17.38 ID:BH3+wxJGO
悟史の舌が強引に阿部の唇を押し広げ、口内に侵入した。


阿部は悟史の舌を受け入れ、優しく吸い上げる。


ピチャピチャと卑猥な音が口から漏れた。

悟史は息を荒くしながら、阿部のつなぎに手を入れて、胸の辺りを愛撫した。

阿部は悟史をそのままダイニングの床に押し倒すと、ユニフォームのボタンを一つずつ外していった。

悟史の華奢な腕が阿部の首に伸びて、そのまま包み込んだ。

二人は熱い吐息を漏らしながら互いに見つめ合った。

 

絡みあう傍ら、二人は知るよしも無かった…。


まさかダイニングの窓の外に人影があろうとは…。

二人の情事を目のあたりにした人影の頬から一滴…また一滴と涙が滴り落ちた。

暫くその場に立ち尽くした人影は、トボトボと暗くなりかけた畦道を歩いていってしまった。

457 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 20:08:28.70 ID:BH3+wxJGO
同時刻……北条家


「オラァ!沙都子!はようメシ持って来んかい!」


いつものように鉄平の怒声が家に轟いた。

沙都子は震える手で味噌汁をよそうと、ご飯と肉野菜炒めが既に添えられたお盆に、味噌汁を置いた。


「い…今行きますわ…」


沙都子がお盆を持ちながら小走り気味に鉄平の待つ居間へと急いだ。


「いつまで待たせるつもりや!はよう持って来んかい!」


再び鉄平の怒声が轟いた。

458 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 20:15:50.54 ID:BH3+wxJGO
沙都子は物が乱雑に放置された居間を縫うようにして移動し、出来るだけ早く鉄平に食事を届けようとした。


だが、床に無造作に転がった一升ビンに足を取られて転んでしまった。


食事を乗せたお盆をよりによって鉄平のズボンに落としてしまった。


味噌汁が湯気をたてて、鉄平のズボンに振りかかる。

 

「なにさらしとんじゃこのクソガキがぁ!!」


鉄平の平手打ちが沙都子の頬を打った。

沙都子は短い悲鳴をあげて、壁に叩きつけられた。

460 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 20:26:47.93 ID:BH3+wxJGO
沙都子は脅えきって目で鉄平を見た。


「ご…ごめんなさい…ごめんなさい…。」


鉄平がわざわざ沙都子の目の前まで来て、おもむろにズボンを脱ぎ始めた。


「汚れたやないか……どないしたらええのんかわかっとるよな……なあ」

鉄平が沙都子の髪を掴み上げて、自らの股間まで持っていく。

「ほら…沙都子……舐めて綺麗にしちょくれや……」

鉄平は味噌汁臭い逸物を沙都子の頬に擦りつけた。

「やだ……もうやだよ……」

沙都子がうわ言のように呟く。

「にーにー…助けてよ…にーにー…」

「悟史なんかおらへんやんか…。」

全ての物を拒絶するかのように閉ざした沙都子の口に、鉄平は自身を無理矢理ねじこんだ。

463 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 20:42:45.34 ID:BH3+wxJGO
鉄平の手が沙都子のパンツの中に侵入し、まだ毛も満足に生えていない性器をまさぐる。


沙都子は非難がましい声を上げた。

 

「許してください…許してください……本当に駄目です…駄目です…」


鉄平は沙都子の体をかかえ上げると、沙都子に自分自身を挿入しようとする。

沙都子は悲鳴を上げた。


「もう怖いのやだぁ!……気持ち悪いのやだ!……やだやだやだ!」


しかし、沙都子の意に反して、鉄平の逸物を徐々に飲み込んでいく。


「嫌だ!嫌だ!……にーにー……にーにー…助けてよ、にーにー…」

469 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 20:54:42.44 ID:BH3+wxJGO
「阿部さん……すごく…良かったです…。」


泥のついたユニフォームを着ながら、悟史が阿部に言った。


阿部は全裸で椅子に座り、頬杖をつきながら言った。


「また…近いうちに…な。」


「え……ええ…そうですね。」


不自然に言葉を詰まらせながら悟史が言った。

「それでは…阿部さん…沙都子をお願いしますね…。」


悟史は深く会釈をすると、玄関から、既に暗くなった畦道へと出ていった。


なるほど…俺のご機嫌を取るために…体を差し出した…訳か…。

俺はこんなにも愛しているのに……寂しいじゃないの…。

阿部は悟史への淡く、それでいて儚い恋心をそっと胸に抱いたまま、悟史の背中が見えなくなるまで、ずっと後ろ姿を見つめていた。

475 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 21:04:55.04 ID:BH3+wxJGO
翌日……悟史に引きずられるようにして、荷物を持った沙都子が阿部の家を訪れた。


他の人の家に泊まるのは初めてなのだろうか…。
緊張して、ずっと下を向いたままだ。


悟史は、沙都子をよろしくお願いします、とだけ言うと走って帰ってしまった。
多分、鉄平に早く帰って来るように釘を刺されているのだろう…。


その間、沙都子はずっと下を向いたままだった。


阿部と沙都子の間に気まずい沈黙が流れた。

476 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 21:15:16.03 ID:BH3+wxJGO
阿部は何とか、この空気を変えようと、明るく努めた。


「沙都子……今日の夕飯はカレーライスでいいかい?…好きだろ?カレーライス…。」


沙都子は弱々しく微笑むと、ゆっくりと頷いた。

元気がない…。

どうしたのだろうか…。


「すいません…阿部さん……食欲がないんですの…気分が悪くて…」


沙都子が下を向いたまま口を抑えた。

確かに顔色が悪い……。
風邪でも引いたのだろうか…。

481 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 21:25:17.33 ID:BH3+wxJGO
「沙都子…風邪でも引いたのかな?……少し休んでろ…。」


阿部は沙都子の肩を支えてやると、部屋の奥へと連れて行った。

沙都子はフラフラと、めまいでも起こしたかのように座りこんだ。

相当辛そうだ。


「最近……何か変ですの…突然気持ち悪くなったり…お腹が重くなったり…急に食欲が出たり…。」


「今、布団を敷いてやるから待ってろ…。」


阿部はお腹をさする沙都子を布団へ寝かせてやった。


もしや…まさかそんな…沙都子は…沙都子は…。


阿部はあまり考えたくは無かった…。
こんな…こんな…あまりにも残酷だ!どうか俺の思い違いであってくれ…。


と、突然ガラスが割れる音が響き、阿部は飛びあがらん程に驚いた。

496 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 21:37:39.17 ID:BH3+wxJGO
阿部は音がした方を向いた。

見ればダイニングのガラス窓が割られていた。破片が四方に散らばっている…。

ダイニングの床に大きめのコンクリート片が落ちている。


畜生……イタズラにしちゃぁ、度が過ぎるぜ…。


阿部は玄関から飛び出すと、辺りを見回した。


見れば前方の畦道を、誰かが全速力で走っていく。


黒いキャップにベージュのTシャツ、そしてジーンズ姿の何者か…。


「畜生め!待て!」


阿部は人影に向かって駆け出した。

498 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 21:43:59.19 ID:BH3+wxJGO
「待て!掘るぞこの野郎!」


凄まじい走力でみるみるうちに距離をつめていく。

 

これでも、阿部は高校時代に陸上選手として活躍した事があるのだ……円盤投げで…。


犯人の息が荒くなっていく。
そろそろ限界のようだ。


阿部は地面を蹴ると、アメリカンフットボールのように、相手の腰をめがけてタックルした。


「キャッ!!」


犯人が悲鳴を上げて地面へと倒れた…。


女……?

506 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 21:52:31.33 ID:BH3+wxJGO
阿部は仰向けに倒れた犯人に馬乗りになると、こちらに向き直させた。


黒いキャップから緑色の髪の毛が覗く…。


まさか……何てことだ…。

阿部はキャップを取った。途端にツヤツヤした緑色の髪の毛が地面に広がった。


ガラスを割った犯人は魅音だった…。


「魅音…何故こんな事を…」


魅音が冷たい…冷たい目をこちらに向けた。
激しい憎悪のせいで氷付きそうであった。

514 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 22:16:41.03 ID:BH3+wxJGO
「魅音…何故こんな馬鹿な事を…。」


阿部は魅音の襟を掴むと、そのまま意外そうにたずねた。

魅音は無言のまま、阿部から視線を外した。
ふてくされたような表情でそっぽを向いた。


「魅音……いい加減にしないと阿部さん怒るぞ…」


阿部が強い口調で凄んだ。

しまいには魅音の目からはポロポロと涙が溢れ始めた。


魅音は泣いていた。


阿部は襟を掴んだ手の力を抜いた…。


それを待っていたかのように、魅音は膝で阿部の股間を蹴り上げた。


「ハアッオ"!」

534 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 22:44:13.67 ID:BH3+wxJGO
「タマらん!」


阿部は股間を抑えて、地面をのたうち回った。


魅音は素早く立ち上がると、再び畦道を駆けていった。


クソッタレ!……油断大敵……。

阿部は股間を抑えながら立ち上がった。とてもではないが、走れたものではない…。

阿部は呆然と小さくなりゆく魅音を見つめていた。
しかし、魅音は何の為に、ガラス何かを割ったのか…。

「あ……あの…阿部さん……?」

後ろから声がした。

「少し…お話がしたいんだけど……いいかな?…かな?」

阿部は股間を労りながら振り返った。

レナが、不安げな表情を浮かべて立っていた。

542 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 23:01:47.15 ID:BH3+wxJGO
レナと一緒に家に帰ると、沙都子がお腹をさすりながら、床に散らばったガラスの破片を拾い集めてくれていた。


「沙都子!駄目じゃないか!寝ていないと!」


「いえいえ…いいんですのよ…」


お腹が痛むのだろうか…顔を歪めながら屈んで拾っている。


阿部は沙都子を抱きかかえると、奥の部屋に再び寝かせた。


「ちゃんと寝てなきゃ…駄目じゃないか!」


「そうだよ…阿部さんの言うとおりだよ…沙都子ちゃん…ちゃんと寝てなきゃ…。」


沙都子はこちらにニッコリと微笑みかけると、そのまま眠りについた。

547 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 23:07:33.54 ID:BH3+wxJGO
阿部は溜め息をつくと、レナに客間へ行くように、告げた。


レナはゆっくり頷くと、客間の方に移動した。


阿部は、よく冷えた麦茶とおはぎを用意した。


だが、何日も前に作り置きしていたおはぎは既に酸っぱくなって、すえていた。

仕方ないので阿部は、代わりにカレーライスを出す事にした。


カレーライスを出された時、レナは露骨に嫌な顔をした。

549 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 23:14:23.17 ID:BH3+wxJGO
「それで…話ってのは一体なんなんだい?」


冷えた麦茶を飲みながら、阿部がレナにたずねた。

レナは視線をテーブルに向けたまま、ゆっくりと話始めた。


「あのね…私…魅ぃちゃんの件で来たんだけど…」


レナがモジモジと手を擦り合わせながら続けた。


「先に謝っておくね…ごめんなさい…さっき魅ぃちゃんがした事…許してあげて…。」


「あのね…魅ぃちゃんね……ずっと…ズゥーーッとね…悟史君の事が大好きだったの…。」


レナは寂しげに言った。


「魅ぃちゃん…普段はあんなだけど…本当はね…すごく…すっごく照れ屋で、恥ずかしがり屋さんなんだ…。」

552 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 23:21:56.34 ID:BH3+wxJGO
野球場での露骨な態度の魅音を思い出す…。


悟史に依存する沙都子を、異常なまでに毛嫌いする魅音の姿が…。


「それでもね…魅ぃちゃん頑張って…何度も何度も悟史君に告白しようとしたの…けどね……駄目だったの…途中で怖じけづいちゃって…。
そんな事を繰り返していくうちに…とうとう膿んじゃったんだ…悟史君への恋心が…。」


阿部は気まずそうに、床を睨んだ。

一体レナは何を言いに来たんだ…。

554 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 23:28:40.72 ID:BH3+wxJGO
「魅ぃちゃん…悟史君の事になると…見境がつかなくなっちゃったんだ。」


レナは申し訳なさそうに阿部の方を向いた。


「それでね…昨日の夜、魅ぃちゃんから電話がかかって来たの…傷ついたって…レナどうしようって…。魅ぃちゃん……泣いてた…。」


阿部は昨日の事を思い出した……悟史との情事を…。
まさか…魅音は…その事で俺に恨みを…?


おいおい、勘弁してくれよ…。


「阿部さん…昨日……悟史君と寝たでしょ…?」


レナが不安そうな目を向けながら核心をついた。

561 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 23:35:54.00 ID:BH3+wxJGO
阿部は出来るだけ落ち着いて話をするように努めた…。
ここでかんしゃくを起こせば、まともな話は出来なくなる…。

「……覗いてたのかい…?」


レナがゆっくりと頷いた。


「魅ぃちゃんが…見てたんだ…。」


レナは阿部の目をみながら続けた。


「だから……阿部さん…悟史君の事…諦めてくれないかな?…かな?」

566 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 23:41:38.90 ID:BH3+wxJGO
「ね…?お願い…阿部さん…。」


レナがテーブルから身を乗り出して、阿部に頼みこんだ。

こんな事……本来ならレナにやらせるべき事ではないだろうが!

阿部は内心怒鳴りたい気持ちで一杯だった…いやブン殴ってやりたかった。


こんな方法…フェアじゃない…アンフェアだ!


「それに……私…阿部さんの事が…。」


レナが頬を赤らめて、視線を落とす…。


そんな…レナまで……勘弁してくれ。

577 名前: バイト(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/21(水) 23:51:43.17 ID:BH3+wxJGO
「おいおい…こんなんで…いいのかよ…。」


阿部は麦茶を一気に飲み干した。
そしてコップを思い切り、テーブルに叩きつけた。


騒々しい音を立てて、コップが砕け散った。
レナはビクンと身をすくみあげた。


「……沙都子が……沙都子が…孕んじまったのかもしれないのに………こんなんでいいのかよ…。」


「え…?!そんな…そんな…沙都子ちゃん…!」


阿部の中で何かが軋み、歪み、今にもバキバキと音を立てて壊れそうになる。


それは強く……それでいて、信じられない位に脆い物だ。

587 名前: 相場師(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/22(木) 00:03:32.21 ID:TPa6yubAO
阿部は不安げにうろたえるレナを見据えて言った。


「これから…診療所に行って…正式な検査を受ける…。もし…もしクロだったら…悟史は勿論…お前らもピーチクパーチク言ってられなくなるんだぞ…?」


「そんな…あんまりだよ…そんなの…あんまりだよ…沙都子ちゃん…可哀想すぎるよ」


レナが顔を覆って泣き出した。
泣いて解決出来る問題ではない…。


「今から…一緒に……診療所に行ってくれるかい?…レナ…。」


レナは暫く、声を押し殺して泣いていたが、やがて顔をあげると、心得た、という風に頷いた。


「分かったよ…レナはついていくよ…一緒に…。」

593 名前: 相場師(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/22(木) 00:18:10.22 ID:TPa6yubAO
阿部は眠たそうに目を擦る沙都子をおんぶすると、レナと一緒に歩き始めた。


「阿部さん…どこに行く気なんですの…?」

沙都子が具合の悪そうな、かすれた声で言った。

「診療所だよ…お前が具合悪そうにしてるからさ…。」

阿部はぶっきらぼうに言った。

「そんな…そこまで…心配なさらなくても…」

「沙都子ちゃん…無理しちゃ…駄目なんだよ?…だよ?」

レナが頬を膨らませながら言った。
レナは内心、辛くて、辛くてたまらないだろう。

俺と魅音の板挟みに加えて、沙都子の妊娠騒動…。

レナは強い……改めてそう思った。

阿部は涙を堪えた…。堪えて、堪えて、ついには悲しみさえも飲み込んでしまった…。

609 名前: 相場師(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/22(木) 00:43:26.89 ID:TPa6yubAO
「こんにちは…阿部さん…今日はどうしました?…また喧嘩でもしたんですか…?ハハッ!」

相変わらず陽気な笑顔で入江先生は阿部を迎えてくれた。

阿部はレナと沙都子を待合室に待たせて、診察室に入る。

「入江先生…これは真剣な話ですよ…。」

阿部は険しい表情で入江先生を見つめた。

表情でただ事ではない事を悟ったのか、笑顔が一転して、本来、医者のあるべき真剣な表情になる。

「…一体…どうしたんですか…。」

阿部は入江先生を見据えたまま続けた。

「実は…沙都子が…沙都子が…妊娠…したみたいなんです。」

入江先生の表情が悲しげな表情に変わる。

「…それで……私に…検査を…?」

「…そうなんです…。」

「……分かりました。それでは…沙都子ちゃんをここへ…。」

薄い生地のゴム手袋をしながら入江先生が言った。

619 名前: 相場師(新潟・東北) 投稿日: 2007/03/22(木) 00:53:51.85 ID:TPa6yubAO
入江先生は沙都子を椅子に座らせた。


「私は…何か…悪い病気なのでしょうか…」


沙都子が心配そうに入江先生を見つめた。


入江先生は沙都子を安心させるように、いつもの、少年のような笑顔を浮かべた。


「さあ…ベッドに少し横になってね……阿部さん…ズボンを脱がすので…少し…席を外して下さい…。」


入江先生がこちらを向いて言った。
拒否する権限など、阿部にはみじんもない…。


阿部は素直に従った。

771 : 相場師(新潟・東北)  :2007/03/22(木) 19:43:06.38 ID:TPa6yubAO
診療所の待合室でレナと二人で、並んで結果を待つ。


重々しい空気が二人を包む。


「もし…もし…妊娠してたら…沙都子ちゃん…どうするつもりなのかな?…かな?」


レナが唐突に、阿部に話しかけてきた。


「鉄平の子供だぞ…それに沙都子はまだ小学生…堕ろすしかないだろうが…!」


阿部が下を向いたまま答えた。


「………ごめん…。」


レナは再び、口をつぐんで押し黙った。


永遠とも思えるような時間が過ぎていく…。


778 : 相場師(新潟・東北) :2007/03/22(木) 19:52:15.96 ID:TPa6yubAO
突然、診察室のドアが開いて、入江先生が顔を出した。


表情がいつになく険しい。


「阿部さん……ちょっと…。レナちゃんは…そのままそこにいて。」


入江先生が阿部の方を向いて、手招きをした。


阿部はとてつもなく重い腰を上げると、診察室へと入った。


沙都子がベッドの端に腰掛けながら、半ズボンの裾を直していた。


「じゃあ…沙都子ちゃん…。今からお薬を渡すから待合室で待っててね。」


沙都子はコクリと頷くと、会釈をして診察室から出ていった。

沙都子が出ていくと、入江先生は溜め息をしながら眼鏡を外して、指で眉間の辺りを揉んだ。


「阿部さん…結果から申し上げます…。」


792 : 相場師(新潟・東北) :2007/03/22(木) 20:06:42.16 ID:TPa6yubAO
「彼女は…確実に妊娠しています。」


入江先生が阿部の方を厳しい表情で見据えながら言った。


「しかも…妊娠してから一ヶ月や二ヶ月じゃない……既に四ヶ月は経過してる…。そろそろお腹が膨れてくる頃です。……こうなってはしまっては…堕胎はもう…手遅れです…。」


阿部は、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

暫く、声が出せなかった…。

頭が真っ白になり、口がカラカラに乾く…。


「彼女も薄々気付いていた事でしょう…。つわりが起きたり…生理が止まったり…。」


入江先生が再び溜め息をついた。
目には悲しみとも、怒りとも取れない複雑な色を帯びていた。

 

 

スレ2へ

タイトルへ